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窓際エンジニア(仮)の日常

昨今のレンタルサーバ事情とその選び方

この記事は「低予算でも闘う企画担当者の為の鎮魂歌 Advent Calendar 2015」の2日目の記事です。
 
今回は新しい企画の立上げ時には事実上必須となるレンタルサーバの選択についての記事です。  
新しい企画を立上げいざサービスを開始するとなると少なくともホームページの準備は必要となります。ネットサービスやインターネット経由で注文の受付やサービス間の連携を行う場合もそうですが、それ以外の場合でも会社サイトの公開やブログの運営など様々な場面でレンタルサーバを利用する事となります。
昨今では格安で利用する事ができ、昔ほどレンタルサーバの選択に慎重さが求められなくなりましたが、やはり各社それぞれ特徴があり、その特徴を理解して選択する事は非常に重要です。
 
今回はそんなレンタルサーバについての昨今のレンタルサーバの事情を確認しつつその選び方について共有します。

なぜこの時代に「レンタルサーバ」を選ぶのか

ここ数年でインターネットで提供されるサーバインフラは目覚ましい進歩を遂げ、VPSやクラウドのサービスが増えただけでなく、AWSのようなより実践的な機能を多数有し年々進化を続けるサービスまで非常に多岐にわたるものが登場しています。
またVPSやクラウドサーバの単価も下がり、以前は海外サービスでしか提供されていなかったレベルのものが国内事業者からもワンコインで当然のように提供されるようになりました。
 
この結果、レンタルサーバを利用するのかそれともVPSやクラウドサーバを利用するのかという判断基準は曖昧になり、ある程度インフラ構築の経験を持ってしまうと安易にVPSやクラウドサーバを選択するという事も少なくありません。
しかし近年レンタルサーバも目覚ましい進化を遂げており結果大抵の要求はレンタルサーバ環境で実現する事が可能になりました。
 
プログラミング言語の利用やデータベースの利用が可能であることは当然として、その他にはどのようなメリットがあるのでしょうか。まずはその点のご紹介から始めたいと思います。

(1) 独自ドメインの利用と独自SSLの利用が誰でも可能になりました

従来のサービスではレンタルサーバでは共有SSLのみが提供され独自ドメインを持ち込んだ場合は、多くの場合で独自SSLオプションのようなサービスを追加し有料で利用する事が必要でした。 またその際も自由な認証機関や証明書の種類を選べるわけではなく、国内大手のもののみ利用可能であるケースであった場合、月数百円程度のレンタルサーバに対して独自SSLオプションとサーバ証明書の発行手数料だけで年間数万円という高額な負担が必要となる矛盾した状況がありました。
 
しかし近年では「SNI SSL」に対応したレンタルサーバが急速に増え、主要レンタルサーバサービスの多くでSNIベースのSSLを安価に利用する事ができるようになりました。
 

www.sakura.ad.jp

www.xserver.ne.jp

www.coreserver.jp

www.value-server.com

このような事情から独自ドメインでサイトを構築する場合に、お問合わせフォームを独自ドメイン環境下でのSSL化対応する為だけにあえて安価なVPSやクラウドサーバを選択する必要性はなくなりました。

(2) シェルログインの解放とComposerの普及

以前からシェルログインは幾つかのレンタルサーバサービスでは解放されており目新しいものではありません。
一方でそれらの機能を用いて行う事はそれほどなく、結果的にレンタルサーバの選定においてシェルログインの可否は要素としてそれほど重要性をもつものではありませんでした。
しかし近年各言語においてパッケージ管理ツールが広く普及し、PHPにおいてもComposerが近年急激に普及するとレンタルサーバにおけるシェルログインの重要性は一気に高まりました。
 
もともと安価なVPSと同等の金額のレンタルサーバではサーバの処理能力としての評価は難しく、環境の自由度はVPSが高く一方で状況によっては処理性能はレンタルサーバの方が高いというケースもありました。
但しサービスの継続的提供を考えた場合、レンタルサーバ環境ではライブラリの管理等の問題もあり現実的には選択し辛い現実もありましたがComposerの普及とシェルログイン可能な環境の提供の組み合わせによりそれらの課題もかなり解決できるようになりました。
 
結果比較的単純なサービスの提供だけであればシェルログイン機能が利用できるレンタルサーバ上でComposerを使いライブラリのインストールを行う事ができる環境が整った現状では安価なVPSサーバをあえて選択するケースは依然よりも少なくなったと判断できるかと思います。

(3) 周辺サービスの拡充

前述の通りレンタルサーバはここ数年で飛躍的な進歩を遂げ、安価なVPSと比較しても十分に対抗サービスとして選択できるレベルに達していると実感していますが、それをより現実的なものとしたのは周辺サービスの拡充です。
 
そもそもレンタルサーバはあくまでも共有環境という制約がある為高トラフィックを処理するのには限界がありました。しかし近年ではCloudFrontCloudflareのように安価(条件によっては無料で)に利用できるCDNが登場しそれらの問題を解決できる場合も増えてきました。
CDNサービスを上手に利用する事でレンタルサーバでは処理しきれない程の高トラフィックであっても柔軟に対応する事ができ、トラフィック対策の為だけにクラウドサーバ上での構築を行うような負担は回避する事ができるようになりました。
 
その他にも例えばレンタルサーバで課題となるがメール送信環境の問題です。
共有サーバという性質上サービス自体がそれほど複雑でなく基本的な要件としてはレンタルサーバで十分満たせていたとしても、メール送信環境場合によってはメールをトリガーとした機能の整備を行うが為に専用のサーバを準備しなければならないという事も少なくありませんでしたが、しかしこれらも近年では周辺のサービスで全て個別に解決する事が可能です。
 
例えば、小規模なポータルサイトやSNSサービスを構築する場合であれば会員登録時には多くの場合メールでのやり取りが発生します。このメールを迷惑メールとして処理されたくないという課題を解決したいのであればメール配信サービスを利用することで多くの場合で解決する事が可能です。また送信ではなく受信時に特定の処理を行いたい場合でも同様で、近年提供されているメール配信サービスでは受信時に特定の処理を呼び出す為のインターフェースが実装されており簡単にそれらの処理を実装する事が可能です。
なお、あえて付け加えるならば多くのメール配信サービスでは月間の送信件数が一定以下であれば無料または非常に安価に利用できるケースが多いためプロトタイプの開発やアルファ・ベータサービスの提供程度であればそれらのプランで対応する事も可能です。
 
このようにもしも一部の機能がレンタルサーバでは賄えないと思った場合も安易にVPSやクラウドサーバの導入を検討せず、まずは部分的な専用サービスの利用を検討し段階的に環境を拡張する事でも十分対応することが可能です。

(4) 自由度と運用負担のトレードオフ

もしも1日のうち多くの時間をインフラ環境のチューニングや監視、管理に割くことができるのであればそれは素晴らしい事です。
しかし現実では必ずしもそのような望ましい環境ばかりとは限りません。その一方でVPSやクラウドサーバを利用する場合、時間の有無に係らず一定の作業時間をその管理に割り当てる必要が生じます。
 
レンタルサーバと比較した場合のVPSやクラウドサーバの最大のメリットはその自由度であると言えます。一方で最大のデメリットは運用負担となるでしょう。 しかし前述の通り、近年のレンタルサーバやそれを取り巻く環境の進化は著しくある一定の規模や仕組みのサービスであればレンタルサーバでも十分にサービスを提供する事は可能です。
 
これから立ち上げるサービスや事業で求められる環境に高い自由度が必要なのであれば迷わずVPSやクラウドサーバの利用を前提に準備を進めるべきですが、もしもそうでない場合、まずはレンタルサーバでの提供を視野に入れる事ができれば運用開始後に担当者として行うべき運用負担のうち、基盤部分の管理についてはあなたに代わってレンタルサーバ提供会社が十分な対応を行ってくれるでしょう。
 
重大なセキュリティインシデントへの対応、ライブラリのバージョンアップ、ハードウェアの管理、そして新たなトレンドに対応した機能の提供等レンタルサーバを選択する事により得られるメリットは多岐にわたります。
 
そしてあなた自身の時間が空くという事はその時間をサービスそのものの企画や開発に充てる事ができ、それはサービスの価値を高める事にもつながるのではないでしょうか。

まとめ

以前は「安いけどちょっと物足りない」というイメージのレンタルサーバでしたが、昨今のレンタルサーバは基本機能だけでなく、付加機能も非常に充実しており安価なVPSよりもよほど利便性が高いと言えます。
特に企画担当者のようなサービスの立上だけでなく様々な作業の一つとしてインフラの準備やサービスの開発・運用を行うようなケースではコンパクトに機能が集約されており、複雑なインストール作業や設定作業を行わなくても直ぐに準備作業に取り掛かれるレンタルサーバは上手に付き合う事で強い味方となる存在です。
 
今までは最低でもVPSという選択を行われていた方もこの機会に一度レンタルサーバの活用について検討いただき、機会があれば是非一度実際に活用していただき、進化したレンタルサーバを実感していただければと思います。
 
3日目は実際に提供されているレンタルサーバサービスの選択について具体的なサービス名を挙げて紹介したいと思います。